■2010年過去記事―――

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繙 蟠 録 2010年1月前半

2010/01/11 井戸を掘った人に出会う

最近,仕事で知り合った方が,『東京レディコング』のスタッフのひとりだったときいて感激している。1990年に女性向け夕刊紙として出された同紙は,文字どおりDTPによる日刊紙の草分けだった。残念ながらまもなく発行元の蘭華社の破綻とともに休刊になったが,その後の急激なDTPの本格的普及ぶりを振り返るとき,1993年の『日刊アスカ』とともに,日本のDTPの礎(いしずえ)を築いた歴史的な偉業であった。

1993年12月,日刊アスカが夕刊紙として創刊されたとき,その発行の背景や経緯よりも,私たちはそれがマッキントッシュの完全DTPによる発行だということを新しい時代の始まりとして,感激をもって受け止めた。しかし,連数字が横になったままであったり,行が重なっているのを見ると,最初は微笑ましく,また身につまされ,やがて,誤植を繰り返し見付けるにしたがって,DTPはまだまだ使いものにならないなぁ,と溜め息をついたのだった。しかし,ある哲学者は「何も仕事をしない人は失敗もしない」と教えている。そうだ。それから3年経ち,日本のDTPは数々の失敗を重ねるなかで長足の進歩をとげつつある。まさに失敗は成功の母だった。

これは,1996年の第9回東京国際映画祭で,鈴木一誌さんら少数精鋭のDTPチームが会期中ずっと日報を出し続けたときに,私が書いた文章の一部だ。『日刊アスカ』から3年,『東京レディコング』からは6年も経っていた当時もまだ,瑕疵をあげてはDTPは使い物にならないと足を引っ張る人も少なくなかった。新しく興りつつあるものの不十分さをあげつらう者はいつも絶えない。しかし,歴史は“無為より無謀”な人びとの労苦により動いていく。「水をのむ時には井戸を掘った人を忘れない」。(M)

2010/01/06 【再掲/イベント案内】日本語の文字と組版を考える会を振り返る

もじもじカフェ第21回「日本語の文字と組版を考える会を振り返る」の参加申込み受付が始まりました。

詳細案内 http://moji.gr.jp/cafe/themes/021/

もじもじカフェ第21回「日本語の文字と組版を考える会を振り返る」

  • 日時 2010年2月6日(土) 15:00~17:30(開場14:30)
  • 会場 バルト(東京・阿佐ヶ谷)
  • ゲスト 前田年昭(編集・校正者)
  • 参加費 1000円(ワンドリンクつき)

 ご参加いただける方はぜひ,ききたいこと,討議したいことなどを申込みとあわせて主催者あてにご連絡くださいますようお願いします。「日本語の文字と組版を考える会」運動が意味したものは何かを,「文字と組版」の現在のなかで共に考え,議論できればと思っています。(M)

2010/01/05 汽水域か白区か――息を潜めて生き抜く

三上勝生さんのブログ「MIK 三上のブログ」の1月4日付「汽水(Brackish water)」は,汽水魚しか生き延びることのできず,迷い込んだ海水魚はときに死んでしまうという汽水(淡水と海水がまじりあった塩分の少ない水域)のことを書いている。

 ふむと考え込んだが,私は海水から外に彷徨い出て汽水域に迷い込んでしまったのだろうか。どう考えても納得がいかない。世界のほうが勝手にいわば汽水域化していっているのではないか。あるいは紅区で暮らしていたはずが,気づいたら何時の間にか白区の真ん中にいる,という二重権力が長期に存在しつづけた中国革命の喩えのほうが実感に即しているかもしれないなぁ。心優しい旧友からの賀状に「全て,結果が原因を打ち消す社会を危うく思います」とあり,別の知人からの賀状には「斥候(ものみ)よ、夜はなお長きや?」とあった。一時のことだったかもしれないが大海原を泳ぎまわる楽しさを味わった海水魚は,汽水魚に生まれかわることはもちろん,汽水魚を装うこともできないし,したくない。たとえ「背びれがかしぎ、息も絶えだえ」であろうとも生きる,生き抜く。(M)

2010/01/03 新年のごあいさつ

明けましておめでとうございます。旧年中のご支援ご厚情に心から感謝いたしております。一昨年創刊の思想誌『悍』も三年目を迎え、四月に第四号刊行の予定です。二〇世紀末の出版=左翼の大崩壊は、二一世紀の出版=左翼の新生と復興を準備する慶事です。徹底的な破壊こそ建設だからです。在野の批判精神の復興という創刊の原点に立ち返り、論争の場をつくることによって、出版=左翼の根底的再生のための肥やしになりたいと思います。さらに「web悍」の拡充や公開討論会の開催なども計画しています。今年も一層のご支援をよろしくお願いいたします。二〇一〇年元旦『悍』編集人 前田年昭


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