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(つづき)
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人生,文字を知るは曖昧の始まり――魯迅の復権
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魯迅は「人生,文字を知るは曖昧の始まり」という。至言である。魯迅はまた,先に引用した「賢人と愚者と奴隷」の1年後,「『墓』の後に記す」(1926年)で次のように書いた。
「古人は,書を読まなければ愚人になる,といった。それはむろん正しい。しかし,その愚人によってこそ世界は造られているので,賢人は絶対に世界を支えることはできない」(*26)
「窓がない」と愚痴る奴隷どもを横目に壁を壊した愚者(変革者)にならって,「漢字がない」と愚痴る文芸家たちを横目に私はきょうも文字組版業に励んでいる(*27)。でもねえ,何でも入れればいいという闇鍋集合文字セットと下手糞なフォントづくりには加担したくないなあ。
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註
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*1
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杉本つとむ編著『漢文入門』1972年,早稲田大学出版部刊,に文化14年官板の影印・干禄字書が収録されている。干禄字書は字体研究の基本的な文献の一つである。
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伏見冲敬『常用書体字典』1986年,角川書店刊,は同編者,同版元の『書道大字典』のハンディ版であり,2800余の各親字について楷書,行書,草書,隷書,篆書の例が書道の古典である古碑帖から選んで掲げられている。こういう豊かな手書き文字の集成を見ていると,3000年も生き続けてきた漢字の生命力をひしひしと感じる。編者は巻頭の解説で「今日の教育制度では,教科書などに使われている活字体を,日常の書写にまでそのまま使わせようとしているかのようであるが,手で書くのには伝統的な書き方があり,一世代前くらいの人までは,そうした素養をうけていたものであった。しかし,今では教育者でさえこのことを知らない人がいるような時代となってしまった」と述べているが,戦後教育に対する批判と受け取るべきであろう。
*3
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『誤字俗字・正字一覧表』1995年,テイハン刊,に平成6年11月16日付け法務省民2第7007号法務局長,地方法務局長あて民事局長通達「氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する『誤字俗字・正字一覧表』について(通達)」が収録されている。
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米川良夫・和田忠彦・柱本元彦訳『カフカの父親』1996年,国書刊行会刊
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レオ・ヴァイスゲルバー著,福田幸夫訳『母語の言語学』1994年,三元社刊,はフンボルトの先駆的な仕事を援用しつつ,人間であるためには言語を所有していなければならず,言語を所有するためには人間でなければならなかったという言語と人間であることの深い結びつきを説いている。
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村上陽一郎『文明のなかの科学』1994年,青土社刊
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米原万里『不実な美女か貞淑な醜女か』1998年,新潮文庫
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芝野耕司「JIS漢字の歴史」1997年,情報規格調査会ニュースレター1997,のほか *19 の日本語の文字と組版を考える会第8回公開セミナー講演論文集所収,→web archive http://jcs.aa.tufs.ac.jp/jcs/X0208/
*9
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芝野耕司編著『JIS漢字字典』1997年,日本規格協会刊,はその序文で明言されているとおり規範的立場ではなく記述的立場に貫かれ,現代日本漢字がどのように用いられているかを徹底的に調べあげ,明らかにした画期的な調査報告書である。文字コード問題の解決は,このような「もっとも単純な,もっとも普遍な,もっとも根本的な,もっとも大衆的な,もっとも日常的な,何十億回となく繰り返される関係」の分析が土台にすえられなければありえない,と私は考えている。
*10
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『日本経済新聞』1997年10月19日付
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『神奈川新聞』1998年2月13日付「社説」,は諸紙誌に載った日本文藝家協会によるJIS批判キャンペーンをそのままなぞったものとして異色の新聞社説であったが,ものごとには常に両面があるもので,文字コード問題を世間に広く知らしめたことはたいへんよいことである。なぜなら,JIS漢字コードの97年第4次改訂,および新JIS(第3水準,第4水準)開発が膨大なボランティア作業によってになわれていること,また公開レビューというきわめて知的な方法によって支えられていること,などの事実はもっともっと広く知れ渡ってよいことだと私は確信しているが,その契機になれば「災いを転じて福となす」ことができるではないか。
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池田証壽「『電脳文化と漢字のゆくえ』拾い読み」一九九八年,http://member.nifty.ne.jp/shikeda/ url変更→http://homepage3.nifty.com/shikeda/den_kan.html
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ヴィリー・ミュンツェンベルク,星乃治彦訳『武器としての宣伝』1995年,柏書房刊,はワイマール期にヒトラーに抗して闘った労働者文化運動の指導者であり,ドイツ・コミュニストである筆者が残した歴史的名著であり,ナチの宣伝がなぜ巨大なのかを分析し,明らかにしている。
*14
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平凡社編『電脳文化と漢字のゆくえ―岐路に立つ日本語』1998年,平凡社刊,は「編者 平凡社」としているだけで編者の顔が見えない。しかし,収められたなかには,紀田順一郎署名の文章のようにあたかも1978年にJIS第1水準,83年にJIS第2水準が制定されたかのような記述(事実は第1,第2水準ともに1978年制定)が挟みこみの正誤表で訂正されるというほど基本的な事実についても驚くほど杜撰である。しかし,いや,それゆえにというべきか,本稿で対象とした「工業と立ち向かう文化」という言説を研究するためには必読の文献である。
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「インターネット文芸新人賞」選考委員座談会における発言,『読売新聞』(同新聞ホームページ))
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ロジェ・シャルチエ,福井憲彦訳『読書の文化史』1992年,新曜社刊
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『日本語の文字と組版を考える会会報』第8号,1998年3月,日本語の文字と組版を考える会事務局
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豊島正之「JIS漢字批判の基礎知識」日本語の文字と組版を考える会第8回公開セミナー講演論文集所収,1998年,日本語の文字と組版を考える会事務局,http://jcs.aa.tufs.ac.jp/mtoyo/ →http://jcs.aa.tufs.ac.jp/mtoyo/on-JCS/index.htmlでも公開されており,後に紹介する同会事務局へ申し込めば実費で入手可能。
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竹内好訳『魯迅文集』第2巻,1976年,筑摩書房刊
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『文藝家協会ニュース』558号,1998年2月,社団法人日本文藝家協会
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坂村健「漢字が出ない」『すばる』1998年4月号,集英社
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島田雅彦インタビュー『ワイアード』1997年4月号,同朋舎出版
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島田雅彦他『電脳売文党宣言』1996年,アスキー刊
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『日本語の文字と組版を考える会』第7回公開セミナー資料,1997年,日本語の文字と組版を考える会事務局。欧米でも筆記体で書けない人が増えていることが報告されている。たとえば,1996年4月3日付『日本版ニューズウイーク』にジョン・セッジウィク署名の「筆記体が絶滅の危機に―パソコンが使えれば,きれいに字を書く必要などない?」という興味深い記事が掲載されている。
*25
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マックス・ヴェーバー,大塚久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』1989年,岩波文庫。ヴェーバーの現代への問いかけに対して,山之内靖は『マックス・ヴェーバー入門』1997年,岩波新書,において「テクノロジーの発展につれて普遍化する苦難」とこれに対する「受苦者としての連帯」との答えを提起している。
*26
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竹内好訳『魯迅文集』第4巻,1997年,筑摩書房刊
*27
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私の組版現場では,品質第一の立場から,日本語は写研(外字A・外字Bを含む書体では約9700字),漢語は北大方正(約14000字),朝鮮語はアレア・ハングル(約11000字)を最大集合の文字セットとして組版業務に使用している。本文書体の選択にあたっては,府川充男の指摘するとおり,それぞれの組版システムとの関係で十分な字体数が準備されているものを選ばねば工程に無用の負荷をかけることになる。工程や効率を強調すると,またぞろ「工業に立ち向かう文化」幻想に囚われた人びとから非難をあびるかもしれぬが,そういう人びとに欠落しているのは活字時代,たとえば精興社書体の書体設計師,君塚樹石のようなプロフェッショナルの仕事が持つ歴史的意義への理解であろう。作字や別書体による代用はできるだけ避けねばならず,実際に使われている字を丹念に拾い,高品質なフォントを作ることが大事だと確信するゆえんである。
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なお,日本語の文字と組版を考える会は,鈴木一誌による「ページネーション・マニュアル」の提案をきっかけにして,DTPをデスクトップパブリッシングとしてだけでなく,デスクトップページネーションとして考えたい,日本語というおおもとの特質に立ち返って考えたい,ということで1996年暮れに生まれた。デザインから編集,文字組版,製版,印刷にいたる,広くページネーションにかかわる人びとが日々ぶつかる問題をとりあげ,隔月で公開セミナーを開催し,報告書を出している。連絡先は,(郵便番号162-0822)東京都新宿区下宮比町2-18-1102,ファクシミリ03-5229-8047,メールアドレスHCC00672@nifty.ne.jp〔1998年11月以降 [Web Page]http://www.pot.co.jp/moji/ [メールアドレス]moji@pot.co.jp に変更になりました……1998年11月補記〕
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(おわり)
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