逆井克己『基本日本語文字組版』を強力に推薦する!




1999年3月

前 田 年 昭
ライン・ラボ代表

日刊・デジタルクリエイターズ No.265 99年3月2日付掲載

組版の力はどうやったら身につけることができるのだろうか。

組版には人もコンピュータやソフトウェアも必要だが,コンピュータやソフトウェアは人が使うもので,人の要素が第一である。人の要素を鍛えるには,よい関連書を読んだり,歴史を学ぶことも大切だが,実際の組版の仕事について「苦労する」ことがいちばんよい,と思う。「苦労する」とは考えることだ。

組版ルールを学ぶときに,権威主義におちいってしまったらとうてい組版の力をつけることはできない。ステレオタイプとは,私たちが日頃抱いている単純化され固定化された態度や意見,イメージのことだ。ステレオタイプとは活版印刷の工程において鋳型からつくられる鉛版(ステロ版)を指すことばであったが,ひとつの鋳型から同一の鉛版が多数鋳造されるところから,型にはまった発想,考え方をさすようになったのだ。

たとえば横組での句読点の組み合わせはピリオド+カンマ,マル+カンマ,マル+テンなどいくつかあり,組版ルールについて書かれた本などではマル+テンはよくない,ピリオド+カンマにすべし,としているが,実際の組版ではマル+テンが非常によく使われている。なぜだろうか。

連数字や単位記号はどう配置するのだろうか,その理由はなぜか。縦組の中で混植する欧文はどういうルールで横倒しするのだろうか,その理由はなぜか。モノルビで京(きょう)都(と)と振るとき親文字の字間は空くのか空かないのか,その理由はなぜか。

これらの「なぜ」に真っ向から立ち向かい,組版の「なぜ」を自分の頭で考えるたたき台として格好の本が出る。「日本語の文字と組版を考える会」の世話人のひとりである逆井克己さんがまとめた『基本日本語文字組版』(日本印刷新聞社刊)がそれだ。私は,この本をすすめる。日本語組版の基本を知ったうえで,自分の頭で組版ルールの「なぜ」を考えようではないか。

組版の力をつけるには組版の実地のなかで「なぜ」で考えたことを検証しつづけることだ。

さいごに私のルール観を付言する。「平和条約は戦争を隠すために結ばれ,借金の証文は反故にされるために交わされる」といわれるのと同様,組版ルールはルールとしたとたん破綻を運命づけられているのだ。

縦組のなかの欧字について,ある人は3文字までは正立させ4文字以上は右へ90°回転(横倒し)させるという。この「ルール」がすぐ破綻することは,CDは正立でCD-ROMは横転,Macは正立でWindowsは横転,でいいのかという現実を考えればわかることだ。どういう組版ルールを立てれば,例外処理がいちばん少ないか,どこから破綻するかを自覚することこそ,大切なのではないか。


なお3月8日(月)19時から有志主催の「出版を祝う会」が開かれる。
問い合わせや参加申し込みは,前田まで。
E-mail:tmaeda@linelabo.com

●逆井克己(さかさい・かつみ)
katsumi@sakasai.co.jp
『基本日本語文字組版』
日本印刷新聞社,定価(本体2,800円+税)
ISBN4-88884-093-8C

(おわり)


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